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免疫の化学:2,6-シアリル化されたIgG糖ペプチドフラグメントの全合成

 免疫グロブリンG(以下IgGと略)と呼ばれる抗体の一部は、リウマチ性関節症や免疫性血小板減少症などの自己免疫性疾患の治療に有益であり一般に抗炎症剤として用いられています。 近年、この薬効・生物活性はアミノ酸に結合した13個の糖から成る糖鎖(化合物1)に由来している事が判明しました。

 生体を利用したIgGの合成では、異なる2種類の糖鎖構造を含む混合物として合成されています。このうち、片方のみが消炎性活性を示し、 他方と比較すると10倍以上の消炎性活性を示す事がマウスを用いた実験で明らかになりました。



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 そこで筆者らは、活性の高い方のIgG糖ペプチドだけを得るために、図のように化学的に合成する手法を新たに開発しました。 3つの単糖が連なる糖鎖からはじめ、様々な工夫を凝らして最終的に13糖である化合物1の化学的全合成を見事に達成しています。

 さらに、化合物1とアミノ酸を結合させたIgG糖ペプチドの合成にも成功しています。この生物的評価が良好ならば、現在使用されている調合薬よりも強力、 且つ効果的な薬剤の開発がためされる事は確実です。

(紹介者:埼玉大学大学院 理工学研究科 機能材料工学コース 島田昌宏)

参考文献: "Total Synthesis of the 2,6-Sialylated Immunoglobulin G Glycopeptide Fragment in Homogeneous Form", Ping Wang et al., J. Am. Chem. Soc. 2009, 131 (46), pp 16669-16671.



--- 用語解説 ---

【糖鎖とは】
 糖は体内のあらゆる機能を担っていると言っても過言ではありません。糖が多数連なった糖鎖は、ヒトの全ての細胞膜表面上に存在し、 細胞間の情報伝達や免疫システムに関与しています。
具体的な例を挙げると、病原性大腸菌O157のベロ毒素は特定のオリゴ糖鎖(Gb3;グロボ三糖)に結合し、病原性を発揮します。

【糖鎖合成の意義】
 糖鎖の生理機能は高く、重要な役割を担っているが、糖の種類や構造が多く存在するため、分子レベルにおける機能解明が極めて困難です。 糖鎖を生体から単離する方法もありますが、多種多様な化合物群からの単一構造の糖鎖を単離精製することは多くの時間と労力を伴います。 そこで、有機化学を利用して目的糖鎖を合成することにより、純粋な天然型(天然に存在する糖鎖)のみならず、 非天然型や修飾された糖鎖も合成する事が可能となり、糖鎖構造と機能の関係を効率的に解明する事に繋がっていきます。

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