The 機能材料 話題2】
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認知症との戦い:アルツハイマー病の原因物質のアミロイドβ42をどう阻害するか?

 脳内で生成したアミロイドβ42 (Aβ42)ペプチドが凝集し蓄積することで(図1)、アルツハイマー病が生じると考えられている。 この凝集を阻害できれば、アルツハイマー病を防ぐことができると思われるために、凝集のメカニズムを知ることが重要である。

 この論文では、Aβ42に含まれている芳香族アミノ酸がπスタッキングすることによって凝集するのかを調べている。 結果としては、πスタッキングよりも、立体的な形(パズルの組み合わせのような)がより凝集に関与していると考えられた。

このため、今まで発見されたAβ42凝集阻害剤は、凝集が進む際にAβ42が互いにはまる位置にAβ42に代わってはまることで凝集を阻害している と筆者らは推察している。 このように阻害過程の全体像を研究することでアルツハイマー病の治療法の開発が進むと期待される。



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(紹介者:埼玉大学大学院 理工学研究科 機能材料工学コース 顧 然)

参考文献: "Mutations That Replace Aromatic Side Chains Promote Aggregation of the Alzheimer's Aβ Peptide", Anne H. Armstrong et al., Biochemistry, 2011, 50, pp 4058-4067.



--- 用語解説 ---

【アミロイドβ42】
脳の神経細胞に存在するAPP(アミロイド前駆体タンパク質)から2種類のタンパク質分解酵素(β,γ−セクレターゼ)によって切り出されてくる アミノ酸数42のポリペプチドで、これが会合して大きな凝集体(すなわち、アミロイド)を形成する。
現在では、この大きな凝集体に成長する前の、小さな凝集体(オリゴマー)が、より有害であると考えられている。

【πスタッキング】
ベンゼン環や類似の芳香族分子はそれを構成する原子が同一平面上に並び、その平面の上下にπ電子を張り出すことになる。
2つのベンゼン環の面が、丁度卓球のラケット2枚を重ねるように重なるときにπ電子同士の相互作用が結合性になり、安定な構造を形成する。
これをπスタッキング(構造)と呼ぶ。

【重合阻害剤】
ここではアミロイドβ同士でくっついて大きくなるのを妨害する分子をこう呼んでいる。
これまでもっぱら低分子(500ダルトンより小さい)を用いて開発されてきたが、近年、 ペプチド(アミノ酸が少数個(数〜10数個)結合したもの)を利用した重合阻害剤の開発が進んでいる(本学科でもそれに成功している)。

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