The 機能材料 話題6】
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有機EL材料:二種類の互変異性体を用いた相補的白色発光の生成

 近年、私たちの身の回りの照明を有機分子による光でまかなおうという研究が盛んに行われています。"有機EL照明"と呼ばれるこの技術は、 従来の照明に比べ、
 @)薄い・軽い
 A)省エネルギー
 B)照らす範囲が広い
といった多くの利点をもっています。

 有機EL照明に用いる発光材料には、安定性や、デバイスへの加工のしやすさに加え、何より"白く光る"ことが必要とされます。 これまで、数種類の色の発光分子を、混ぜる、つなげる、小さなドット状に並べる、といった方法で白色の発光を示す分子の探索が行われてきました。

図1
図 1 水素原子の移動に伴う分子構造の変化
本論文では、図1に示す分子の通常体、互変異性体の各々が相補的に発光することで、可視光全ての波長をカバーした白色発光を観測しています。 今回の報告は、水素原子の移動を伴った一種類の互変異性体により白色光が得られた唯一の例であり、白色光生成の新領域を開拓したということができます。

 生物における光といえば、ホタルの光が挙げられます。これも実は、有機化合物が発する光なのです!!誰もが感動し、 一方で安心するホタルの光で照明をつくることができたら、どれほど美しく、快適であるか想像に難くありません。

(紹介者:埼玉大学大学院 理工学研究科 機能材料工学コース 小林悠太)

図2
図 2 溶液中でのUV-Vis吸収スペクトル(グレー)と発光スペクトル(黒)、
固体での発光スペクトル(破線)

図3
図 3 CIE表色系
参考文献: "Fine Tuning the Energetics of Excited-State Intramolecular Proton Transfer (ESIPT): White Light Generation in A Single ESIPT System", Kuo-Chun Tang, Ming-Jen Chang, Tsung-Yi Lin, Hsiao-An Pan, Tzu-Chien Fang, Kew-Yu Chen, Wen-Yi Hung, Yu-Hsiang, and Pi-Tai Chou. J., Am. Chem. Soc., 2011, 133, 17738



--- 用語解説 ---

【有機EL】
有機分子に電圧を印加することで、有機分子が発光する現象を有機EL(エレクトロルミネッセンス)と呼ぶ。 光の美しさや省エネルギーといった多くの利点を有していることから、現在ではテレビやスマートフォンなど実用化が急速に進んでいる。

【互変異性体】 極めて速い速度で相互変換が可能な異性体を互変異性体と呼ぶ。互変異性体の多くでは、平衡状態がどちらか一方に偏っているが、 pHや光励起など特殊な条件では両方の異性体の存在を確認することができる。

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