酒井研究室

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4.その他の主な研究:非局所光学応答とナノスケール評価

これは、研究室開設以来の光変調分光や電場変調分光研究をさらに発展させていく研究です。以下にこれまでに調査してきたことをやや詳しく紹介します。

(1) Franz-Keldyshスペクトルに対するキャリヤ散乱の影響
物質電子は、光によって励起されますが、その後の挙動、特に格子振動や不準物イオンなどによる散乱メカニズムを、Franz-Keldysh(FK)効果を利用して、先ずは、N形GaAsについて調査しました。散乱に由来するスペクトルブロードニング因子を含むいくつかのパラメータを用いて、FKスペクトルを計算し、実験と比較しました。その結果、光励起キャリヤは、格子振動からの影響のみならず、表面近傍に点在する格子欠陥による影響を受けること、その散乱中心が平均約100nm間隔で分布していることを推定しました。このことが意味することは、 FK効果を利用する純光学的測定方法は、電気伝導を利用した通常測定と違って、材料を傷つけることなく、しかも特定の部位でのキャリヤ散乱現象を検出できる能力をもっているということです。

(2) Franz-Keldyshスペクトルに対する半導体表面の影響
表面の存在によって、それに垂直方向の結晶の周期性が消失します。FK効果の従来理論は、このような表面の効果を考慮していませんでした。私たちは、先ず、実験的観点からGaAsを用いてこの点を調査しました。従来理論に電場の非一様性を考慮して実験結果を解析しましたが、観測されたFK振動周期は従来理論で説明できるものの、FK振動ピークエネルギー位置が説明できないことが判明しました。この原因として、GaAs(100)表面から或る深さまで、バンド間遷移が失活した領域、いわゆる、表面光学不活性層(OISL)があることを提案しました。実際、このOISLを現象論的に仮定してFKスペクトルを計算すると、観測されたFK振動周期と同時にFK振動ピークエネルギー位置も説明することが出来ました。

(3) 電界変調反射スペクトルに対する表面光学不活性層の影響と電場依存性
GaAsをInPに代えて、上記(2)と同様の測定・解析を行いました。その結果、GaAsの場合と同様、観測されたFK振動周期は理論計算で説明できるものの、振動ピークエネルギー位置が説明できないことが判明しました。この場合も従来理論にOISLの存在を現象論的に導入することによって、実験結果を説明することができました。さらにInPを用いた実験では、印加する電場の大きさを変化させて測定を行いました。その結果、電場を大きくすると、OISLの厚さが減少することが見いだされました。このことは、OISLの原因を微視的に考える上で重要な知見となります。

(4) P型InP表面に対する熱処理効果とFKスペクトル
GaAsやInPの表面では、必ず自然酸化膜が成長します。これら酸化膜の存在は、半導体内の電子状態に影響を及ぼしますが、特に影響されるのは、表面フェルミ準位です。この点を定量的に評価するために、P型InPのFKスペクトルに対する熱処理効果を調べました。その結果、表面フェルミ準位が220 ℃の熱処理によって0.3から1.2 eVに増加することが見いだされました。

(5)P型InP表面に対する熱処理効果とX線光電子分光
上記(4)の結果を化学結合の観点から調査する目的で、X線光電子スペクトル(XPS)を測定しました。In3d軌道に関するXPS信号に注目して、その熱処理温度依存性を調べました。その結果、FKスペクトルと同様に、熱処理温度220℃ 近傍でIn3d軌道の結合エネルギーが顕著な変化を示すことが確認されました。しかしながら、詳細な点ではFKスペクトルの場合と異なる熱処理温度依存性を示した。調査の結果、その原因がXPS測定で用いるX線が表面フェルミ準位に影響を与えるためであることが判明しました。このことは、少なくともInPの表面フェルミレベルの評価に対しては、X線を用いるXPS測定よりも、近赤外域の電磁波を用いたFK効果を利用した方がよいことを意味しています。

(6) 光学応答の非局所性を取り入れたFKスペクトルの計算
上記(2)及び(3)でGaAとInPにおいて見出された表面光学不活性層(OISL)の原因を微視的に説明することを目的として、非局所的に表わされる微視的な誘電関数を用いて、FKスペクトルを計算しました。計算方法は、非局所性が比較的小さい場合に適用できるDelSoleの方法(1976)を踏襲しました。計算に先立って、 FKスペクトルの計算に使ったDelSoleの方法が、光学応答の非局所性が強い場合にも適用できる一般理論(Cho&Ishihara 1990)とどのような関係にあるのかを考察しました。その結果、DelSoleの方法は、Cho&Ishiharaの取り扱いにおける光電場に関する逐次展開の第1近似に相当することが分かりました。このような第1近似の枠内で、FK効果の計算を、量子細線(1次元電子系)と中間的な厚さをもつ薄膜(準2次元電子系)について行いました。マクロな厚さをもつバルク系への応用は今後の課題です。

これらのFK効果に関する基礎的研究を、「外部電界を利用した半導体中の不純物原子位置検出法」の開発に展開して行きます。その準備としてバンド−不純物準位間遷移に対する電場変調反射スペクトルの計算を行いました。

バンド−不純物準位間遷移に対する 電場変調反射スペクトルの計算

不純物原子による局在準位−バンド間遷移に対する静電場効果が反射スペクトルにどのような変調をもたらすのかを理論的に調査しました。量子力学から要請される光学応答の非局所性を考慮した結果、不準物等の局在状態と半導体表面との距離が、電場変調反射(ER)スペクトル形状に顕著な影響を与えることが見出されました。このことは、ER分光法が原理的に不純物原子位置の検出に応用できる能力をもつことを意味します。

一定のボーア半径(5 nm)とイオン化エネルギー(10 meV)のもと、ドナー原子と表面との距離を変えて計算したERスペクトルを右図に示します。計算に必要な物質定数はGaAsの値を用いました。ドナー原子の表面からの距離が変化すると、スペクトル形状が顕著に変化していることが分かります。

バンド−不純物準位間遷移のFK効果計算に用いたモデル


1.水素とレアアース

2.両極性伝導体RH2におけるスピン流

3.スピン流を利用する論理演算素子

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