酒井研究室

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3.スピン流を利用する論理演算素子

携帯型情報処理機器などが、ポケット電卓の様に、太陽電池だけで動作できれば、どんなに便利でしょう。 デジタル機器の消費電力を下げる方法として、私たちは、機器構成に必要な部品数を減らすことに注目しました。 部品数の削減は、動作時の消費電力のみならず、製造コストの面でも有利にはたらきます。 したがって、解決すべき課題は、使用する部品の数を減らしても、これまでと同じ機能・動作を維持するにはどうすればよいか、という点です。

例えば、排他的論理和ゲート(XOR)という小規模ながら便利なデジタル回路が、情報検索や情報の暗号化・復号化などに使われています。 現在のXORは約20個の電界効果型トランジスタ(以下MOSFET)から構成されますが、MOSFETを使用する限り、原理上、その数を減らすことが出来ません(図7)。 私たちは、その部品数を格段に減らしても、XORゲートと同じ動作を保障する方法を提案します。 そのようなデバイスイメージを図8に示します。 MOSFETを一切使用せず、電極や導電性薄膜だけから構成します。 仕掛けは、(1)電極として磁性体を使うこと、(2)導電性薄膜として電子と正孔が共に電流に寄与する両極性伝導体を使うこと、です。

やや踏み込んだ説明をします。 電子、正孔は共に、スピン磁気モーメントを有する極微小な磁石です。 併進運動する磁石は、相対論効果によって「電場」を「磁場」として誤解してくれるので、運動の向きが変化します。 さらに有り難い事に、結晶性物質ではその有効磁場の大きさが数100テスラにも及ぶ場合があります。 図8中、正及び負極側の強磁性電極からそれぞれ流出する正孔及び電子は、電極磁化方向を反映して磁気的に偏極し、有効磁場によって軌道偏向し、 電流チャネル方向に対して垂直方向に電荷蓄積(ホール効果)をもたらします。 結果的に、2つの電極磁化が反平行時に限り、出力電圧がHighレベルを示すという、XORゲートに特有な排他的動作が期待できます。 このように、従来技術では約20個のMOSFETが必要なところを、両極性伝導体を用いることで、 原理的には部品数を1つに―部品数が20分の1になる―ことが期待できます。

先に述べたように、RH2をはじめとする両極性伝導体では、電流を流さずとも、自律的にスピン流が発生し、それに伴って、 大きなホール電圧が発生します。実用化への課題は、強磁性電極から効率よく磁気偏極電子・正孔を注入し、磁気偏極状態が壊れるより前に、 電子・正孔軌道を大きく偏向することです。その際に、電流を注入せずに、スピン流を注入して、CMOS並みに消費電力を下げることができれば、 原理的にこれまでの約20分の1の消費電力でXOR 動作が出来る様になります。 また、両極性伝導体における演算速度がCMOS並みであれば、トータルとして約20倍速くなることが期待できます。



1.水素とレアアース

2.両極性伝導体RH2におけるスピン流

4.その他の主な研究:非局所光学応答とナノスケール評価

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